隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~

Autumn4

自分の部屋にもどって、服を脱ぎ捨てて、洗濯機に全部放り込む。適当に水洗いしてはいけないものもあるけれど、今はとにかく蓋をして隠してしまいたかった。

込み上げてきた苦いものを何度も飲み込みながら、シャワーをあびて、髪も顔も体も全部念入りに洗った。

風呂から出て、下着とキャミソールの姿で鏡の前に立つ。すっぴんになった自分の顔に直面して絶望する。

目は赤くなっていて、まぶたも腫れぼったい。化粧水をつけてもすっきりしない。
どうにかしないと、五十嵐さんのところに行けない。そもそもどんな顔して、のこのこと戻ればいいのだろう。
冷たい水で冷やしてみても、赤い目は余計赤くなってしまう。無理だ、やっぱりこんな顔じゃ戻れない。そう思うと余計に涙がでてきて、私を追いつめる。

ちょっと自分の望んだ言葉がもらえなかったからって、拗ねて泣いたりしたら、絶対に嫌われる。私はやっぱり上手く恋ができない。
情けない顔としばらく戦っていると、部屋のインターフォンが鳴った。

応答すべきか、向こう側に誰がいるのか悩むまでもなく、すぐにコンコンと扉を叩く音が響いてくる。

「莉々子ちゃん、開けて」

とにかく服を着なければ。私はあわててクローゼットを探った。さっき着ていた服は、香りがついてしまっているから、また選び直さなければならない。今までは何を着ても、お世辞だったとしてもかわいいと言ってくれたのに、今日はあまりいい顔をしていなかった。もう失敗したくないと思うと、服まで決められなくなる。

五十嵐さんを無視したいわけじゃない。なのに何の返事もできなくて、焦ってしまう。
扉を叩く音は長くは続かず、今度はスマホが着信を知らせてきた。これを無視したら、本当に五十嵐さんは行ってしまうかもしれない。私は焦って通話ボタンを押した。

『ごめん。本当に悪かった。頭を冷やしてきたから、ドア開けて』

すぐに聞こえてきたのは、焦ったような謝罪の言葉。彼が怒っていないことが伝わり、少しだけほっとする。でも、だったら尚更こんなひどい顔は見せられない。
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