隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
どんな香りがあるのかと、説明書を読み始めたところで、店員さんが近付いてくる。

「上段がメンズ、下段がウィメンズのラインになっています」

メンズラインと聞いて、私は五十嵐さんのほうに視線を送る。

「前に使ってたのと同じものは、ここにあるんですか?」
「……ああ、これだったっけかな?」

五十嵐さんは、オレンジ系の色のラベルのついた瓶を指す。

「お客様、こちらでしたら女性のかたにも人気ですよ」

私からお願いしなくても、店員さんは手際よく、ムエットに香水を吹き付けて差し出してくれた。

「ありがとうございます」

受け取った紙を鼻の前に近付けて嗅いでみると、柑橘系のきつすぎない、とても柔らかい香りがした。そのまま、五十嵐さんの鼻に近付けてみると、「これだ」と返事がくる。

「男性用なのに、わりと甘いですね……すごくいい香り」

これが欲しい! 他をまったく試していない最初の一個だけど、運命を感じてその言葉が口から出かかる。しかし直前に何気なく見てしまった価格表示に驚き、ぎりぎりで飲み込んだ。
はっきり言って高い。え? 香水ってこんなに高い物なの? 

「これを選んでくれるなら、俺も嬉しいかも」

そんなこと言われたら、別のものを選べなくなる。本当にいいのだろうかと五十嵐さんの様子を伺う。目が合うと、彼は舌をぺろりと出した。
私の歓喜も戸惑いも、全部分かってやってるのか。恨みがましい気持ちで五十嵐さんを睨んでも、こたえる様子もなく、いつまでも楽しそうに笑っていた。
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