自分は、もっと世渡りが上手い人間だと思っていた。

バーで働いていると、常連の客からお土産や、ちょっとした贈り物をもらうのは珍しくない。
気のせいでなければ、何か物をくれる女性客の中で、客と店員以上の好意を感じたこともある。そういう相手と付かず離れず、トラブルになることもなくやってきたつもりだ。

だいたいの女性は、俺が踏み込まなければ相手も一定の距離を保ってくるし、踏み込んでくるタイプには、逃げ道を用意しながら予防線を張っていけばいいだけだった。

たまに恋人がいるかどうか聞かれても、はぐらかす。その時実際にいてもいなくても。「仕事が恋人ですから」なんてよくありがちなセリフを平気で口にしていた。

 しかしそれも過去のこと。

「いらっしゃいませ。……先日は、ありがとうございました」

その日、ちょうど一週間ぶりに来店してくれた客に対し、俺は営業の顔で挨拶をした。
ここまで心が伴っていないお礼を言ったのは、仕事でははじめてかもしれない。お礼を言った相手は、先日無理やり誕生日のプレゼントを置いていった常連客の女性だ。

「いえ、どういたしまして。なんだ、付けてはくれないの?」
「申し訳ありません。うちのかわいい恋人が嫌がるので難しいですね。……お返しした方がいいですか?」

俺もたいがい失礼なことを言ってるなと、自分で呆れるが、なぜか心はスッキリした。
ちらりと、後輩バーテンダーの菅島(すがしま)と目が合う。菅島はあきらかにおもしろがっていた。そもそもこの女性が俺の誕生日を知っているのは、菅島がここで年齢をからかった会話から出た情報だ。覚えてろよ。

一方の女性客は、俺の発言に特に気分を害した様子もなく、余裕ぶった笑みを見せてくる。

「返さなくていいわよ、あなたにあげたものだから。……ブレスレット似合うと思うんだけど。新君って、随分面倒な彼女がいるのね、ちょっと意外。大人の付き合いができる相手じゃないと負担ではないの?」