隣は何をする人ぞ~カクテルと、恋の手ほどきを~
「お送りしますよ、お嬢さん。……なんて、ちょうど休憩時間だったもので」

断ろうと思っても、その前に泣いてしまいそうだったからできなかった。
ぺこりと曖昧なお辞儀をして、そのまま俯いて歩き出すと、五十嵐さんは黙って付いてくる。

月がきれいだとか、火星がでかいとか……私が何も答えなくても、他愛のない独り言のような話をしてくれる。その呑気でひょうひょうとした様子に、だんだんと落ち込んでいるのが馬鹿らしくなってきた。
 
「みっともないところばかり見せてしまってすいません。ありがとうございました」
「みっともないとは思わないけど、みっともなくてもいいんじゃないか。ずっといい子でいる必要ないだろう」
「そうですね、いい子はもうやめます。明日から私、悪い女になります」

私さっき、いい子だから気が抜けないって言われて振られたんだから。そんなのくやしい。彼に合わせていい女になろうとしたのに、自分の努力が認められないのは、一番悔しい。
だったら魅力的な悪い女になってやる! そんな気持ちでぎゅっと拳を握りしめる。

「そうか、がんばれ」

絶対に無理だろうと言いたいのか、五十嵐さんは笑っていた。馬鹿にされているのかもしれないけれど、嫌な気持ちはしなくて、私もつられて少し笑った。

これが、お隣さんと私の、夏の始まり。
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