王太子殿下の花嫁なんてお断りです!
断りたい
伯爵令嬢のオリヴィアはうんざりしていた。


「どういうこと?」


気持ちよく晴れた日の、いちばん穏やかな光が降り注ぐ時間に、美しい花々が咲き乱れる芝庭の真ん中にある大きな木の下で穏やかに読書をしていたオリヴィアは本から視線をあげる。

新緑の葉があたたかな木漏れ日をつくり、小鳥が美しく歌を歌うけれども、オリヴィアが突然声をあげたので驚いた鳥たちはバサバサと羽音を響かせて飛んで行った。

オリヴィアに尋ねられたダルトン伯爵邸侍女メイは冷や汗をかきながらもう一度説明をする。


「で、ですから、旦那様が今到着なされましたので…」

「それは分かっているわ。ただ、本邸(ここ)に戻るのに何の連絡も入れない父上に少し腹が立っただけのことよ」


読んでいた本を閉じて溜息を吐き出した。

王国の片田舎にあるこの領地アンスリナでの生活を嫌い、別宅のある王都できらびやかな生活を送るオリヴィアの父・ダルトン伯爵は、よほどの事情がない限り領内にあるこの本邸に帰ってくることはない。

帰ってくる理由があるとすれば、それはただ一つ。

オリヴィアに嫁ぎ先を紹介するときだけだった。

そして今回もそうなのだろう。結婚に興味のないオリヴィアにとっては憂鬱で仕方がない。

そんなオリヴィアを何とか励まそうと、メイは笑顔を作って必死に声をかける。


「で、でも、緊急ということだったので結婚のお話とは限らないのでは? もしかしたら違うお話かもしれませんよ!」

「…そうだといいわね」


必死に励まそうとするメイの言葉に相槌を打ちながら、けれどそうはならないだろうとオリヴィアは思った。あの父親がそんなことのために、理由も明かさずここに訪れるわけはない。

絶対に何かあるはず。

そんな嫌な予感をオリヴィアは感じていた。
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