王太子殿下の花嫁なんてお断りです!
避けたい
王太子殿下の見合い相手に与えられる部屋はとても華やかなものだった。

薄紅の花模様が一面にあしらわれ、とても可憐で乙女らしい壁紙に包まれたこの部屋には、寝台から化粧台、机や椅子に至るまで、おおよそここで暮らしていくのに必要と思われる家具が一式揃っている。

どうやら客人が滞在したときに何不自由なく生活ができるようになっているらしい。至れり尽くせりとはまさにこのことだろう。

家具は全て白と黄金で彩られた、とても豪華な仕様のものだった。凝った装飾が施されていることからも、これがいかに高価なものかよく分かる。

そして頭上には宝石で作ったようなシャンデリアが煌々と輝きを放っている。


きっと乙女ならうっとりとしてしまうかもしれないが、生憎とオリヴィアの趣味には合わないものばかりで、オリヴィアはこの空間に圧倒されていた。

まるで宝石箱に放り込まれた人形のような感覚さえする。自分はここにいるべきじゃないと壁紙の花に拒絶されているようだった。


……田舎暮らしの自分が、こんなに可愛らしい部屋にいるなど場違いも甚だしい。はやく帰りたい。そんなことを思ったオリヴィアの目にはトランクが目に映った。

使い古されたそれは、オリヴィアが屋敷から持ってきたものだ。


昔から使っているそれを開けると、そこにはお気に入りのドレスとネグリジェ、それから手帳が入っている。

今日お見合いをして、明日にはこの城を立つ予定のオリヴィアが持ってくるものなどこれくらしかない。

オリヴィアはトランクにしまってあった手帳を手に取り頁をめくる。

手帳には領地で暮らしているときからずっと日々のことを綴っていた。

そのほとんどは領地アンスリナの自然で遊んだことと領民との触れ合いのことだった。

< 18 / 143 >

この作品をシェア

pagetop