八周年記念小説
第三話❄退院と食事
二ヶ月後、茉生が退院しました。

怪我も治り、(私のこと以外は)記憶も
普通にありますが大事をとって
後、三ヶ月は休職だそうです。

仕方ありませんよね(苦笑)

茉生が入院してから学校では
教官室に籠ってばかりですね……

私のこと以外は覚えているので
当然、自宅も覚えています。

病み上がりということで私が送って
行くことになったのですが
あそこには
楽しかった頃の、恋人だった頃の
思い出が有りすぎなのです……

茉生のマンションが
近づいてくるにつれて私は
胸を締め付けられる感覚に陥りました。

『茉生、すみませんが
此処で失礼させていただきます……』

どうにか、玄関の前までは
送り届けましたが
“寄って行かないかい?”
と言った茉生の言葉には辞退しました。

『そっか……

もう遅いし、タクシー
待たせっぱなしだもんね。

今日は、ありがとう♡*。』

今はこの気持ちを悟られることは
ないとわかっていますが
怖くなってしまいました。

『すみません……

あなたの復帰をお待ちしております』

なんとか、笑顔を繕って
エレベーターに向かいました。

『ありがとう、気を付けて帰ってね』

最後に振り返って、お辞儀しました。

+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*+*

二週間後の週末、茉生からメールが来ました。

未だに、私との“もう一つの関係”を
思い出せないようですが
“友人”と言ったのは
紛れもなく私自身です(苦笑)

部屋に入れなかった以上に
記憶のない茉生に“もう一つの関係”を
話て軽蔑されるのが怖かったのです……

メールの内容はランチのお誘いで、
何も予定のなかった私は
直ぐに了承の返事をしました。

お店で合流することになり
戸締まりを確認してから家を出ました。

二人きりで食事をするのは
記憶喪失になってからは初めてですね。

『すみません、お待たせしました』

入り口で待っていてくれた茉生に
謝罪を告げ、
二人で中に入りました。

『大丈夫だよ(๑^ ^๑)』

優しいところは相変わらずですね……

それが、“恋人”の私に
向けられたものじゃないことが
寂しく感じてしまいますが……

急かして、思い出して頂けるなら
私もそうしますが
そうではありませんから
記憶喪失は気長に待つしかありません。

何時か、茉生が私との
“もう一つの関係”を思い出した時、
どんな反応をするのかわかりませが
ありのままを受け止めようと思います。

『ねぇ 瑠色、聞いてる?』

茉生に肩を揺すられて
思考の海から現実に戻されました。

『ぇ? すみません、聞いてませんでした』

そう応えた私に又しても
仕方ないなぁという表情(かお)しました。

そして、茉生の口から
ありえない言葉が……

『クスクス、君は相変わらずだなぁ(苦笑)

……あれ? 何で僕は
“相変わらず”何て思ったんだろう?』

無意識だったようですね……

『友人でしたからね(๑^ ^๑)

一緒にいることも多かったですし
何処かに“前の”私との記憶が
残っていたのかも知れません』

記憶の片鱗でしょか?

応えた声が
震えてなければいいのですが……(苦笑)

『そうだといいなぁ』

食事を終え、私の
マンションまで送ってくれました。

『今日はありがとうございました。

それから、ご馳走さまでした』

お会計の際、自分の分は
払いますと言ったのですが
やんわりと制されてしまいました(苦笑)

『じゃぁ、次回は瑠色が奢ってくれる?』

サラッと次の約束の
話をしてくれるんですね……

本当に“恋人”だった頃と変わりませんね……

『わかりました。

次回は私が奢りますね』

茉生を乗せたタクシーを
見えなくなるまで
見送ってから中に入りました。
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