八周年記念小説
第五話❄️記憶が戻る
楼愛達の店を出て
向かった先は茉生の家です。

あの日、茉生が退院した日に
嘘をついて帰ってしまった日から
此処にくることはありませんでしたが
流石に二度目は
断る理由が見つかりません。

“楽しかった頃の、
恋人だった頃の
思い出が有りすぎ”だからなんて
本人には言えませんからね……

『どうぞ』

数ヶ月振りの茉生の家は
何一つ変わっていませんでした。

『お邪魔します』

全てが懐かしいですね……

気が付いたら私は茉生に
後ろから抱き付いていました。

『瑠色?』


疑問符が含まれた声色で呼ばれました。

愛しています……

心の中とはいえ、
本人の前で言ったのは
忘れられてからは初めてです。

何故か今日は歯止めが効きません。

無意識にギュッとお腹に回した
腕に力を込めていました。

頭では割り切っているつもりでしたが
心はずっと悲鳴を上げていました。

久しぶりに触れた茉生のぬくもりは
温(あたた)かくて安心しましたが
同時に泣きたくなりました。

『茉生、このまま聞いてください。

私達の関係は確かに
“友人”でもありますが
“恋人”でもありました』

心の痛みに耐え兼ねて
“恋人”だったと
いうことを言ってしまいました。

『ぅ゛っ』

私がそう伝えた直後、
茉生が苦しそうに頭を抑えました。

『茉生、大丈夫ですか!?』

抱き付いていた身体を離し、
声を掛けました。

焦らせてはいけないと
わかっていたのに私は……

自己嫌悪に陥っていると、
いきなり、抱き締められました。

『瑠色、忘れてしまっていてごめんね』

その言葉に目を見開きました。

『茉生、思い出したんですか!?』

あの告白が記憶を戻す
きっかけになるとは。

『うん、大切なことを
忘れていて本当にごめんね』

私は泣き出してしまいました。

『ひっく、あなたに、
忘れられて、寂しかったです』

嗚咽でつかえながら
途切れ途切れに話す私を
更に強く抱き締めてくれました。

『忘れてしまっていたお詫びに
瑠色のお願いを何でも聞くよ』

そんなことを言われてしまったら
我が儘を言いたい放題
言ってしまいそうです(苦笑)

『本当に何でも?』

『勿論♬.*゚
別に一つじゃなくてもいいんだよ?』

では、お言葉に甘えて私の
お願いを聞いていただきましょう。
< 7 / 13 >

この作品をシェア

pagetop