『本日より、こちらに着任することとなりました本田です。よろしくお願いいたします』

盛大な拍手を受け、通常の異動よりひと足早く新天地にきた私。本田みち 36歳。

大手企業から行政等、転々としてきた私が最近ついた職。知人の推薦があってまた行政に戻ってきたわけで。

そんな日常から、甘い一時を。


『本日着任致しました、佐川です。本庁勤務は初めてですが、よろしくお願いします』

4月3日。着任式の後の引き継ぎを終えた佐川さんが正式に配属となった。
私は嘱託だから気楽な家業だけど、彼は正規の職員さん。
まぁ、なんとも思わず...いつもの如く...お仕事絡んだら仲良くなれるかなぁ?って印象だった。


ここは、泊市役所 生活環境部 環境安全課。
のどかな市だが、規模は大きいので管轄するものも多い中核都市。
市内の一等地にそびえ立つ10階建ての建物。市の行政の塊である、本庁と呼ばれる建屋だ。

専ら、市内の環境測定としてモニタリング監視をするのが俺、佐川コウ。
初の本庁勤務で緊張してるが、デスクワークで少し退屈だ。


『本田、ここどう思う?』
『うん?』
『これだ』
『そうですね...。これは...』

1ヶ月も経たないうちに、何故かこんなに近くにいる。
島、と呼ばれるデスクでの塊も隣なのに、気が付くとそばに居る彼。
175cmを越える長身で、メガネが似合う美形。更にスラッとした細身の理系卒のメガネ男子40歳。専門分野は化学。

対する私。
175cm、理系修士。考え方も男っぽいタイプの36歳。専門分野は物理だが、転職する先々で化学を学ばされ、下手な化学卒よりも詳しくて場数も踏んでいる。

『これは、やっぱりまずいですって。こうした方がいいと思うんですよね』

装置のメンテサイクルを確認しながら、スケジュールを見て嘆く。

『俺もそう思うんだよな...。ちょっとパソコン使うぞ』

後ろから覆いかぶさる様な仕草で、座った私の後ろからパソコンを操作する彼にドキドキする。

『...どこだっけな...さっき入れといたんだけど...』

ぶつくさボヤいてるけど、気が気じゃなくなって赤くなるのが分かる。

『ちょっと待ってな?』
『だ、大丈夫...』

程よく低音の効いた声で、よくよく見ると、実は私の好みドンピシャなコウさん。クール・ビズのこの期間、大きめのデザインの襟を少し開き、ワイシャツからのぞく白い肌。細いのに、腕の筋肉がしっかりしていて、まくりあげだ袖からは逞しい腕。

価値観が近く、考え方がほとんど同じ私たちは、業務が同じになった時から急激に親密度が増した。ような気がする。

『んー、ちょっと待ってな?俺のデスクトップかも...』

ふいっと離れる瞬間に、ほっとするような寂しいような。

コウさん自体は、私のように甘い思いがある訳では無いようで。
私ばかりが、そばに居るだけでドキッとさせられてばかり。
コウさんって呼び方も心の中だけのこと。
まぁ、女性が2人しかいないから、男のうちの1人だと思われてるんでしょうけど...汗。


『これだ』
『ん?』
『これ、お前のがいいと思うんだけど』
『あー、これは佐川さんの意見と、私がやりたい方法で書いたやつだよね』
『そうそう。俺はこっちがいいな』
『ありがとです。どうしたらいいかなぁ』

ね?って顔で見上げてくるコイツが恨めしい。そんな顔で見上げられたら、ドキドキしてしまう。

着任してから、女が少ないのは知ってたが、この極上で俺好みの知性があるやつがいるとは思わなかった。
正規のやつらにすがり付く女はやたらといると聞いていたが、みちは違う。淡々として、仕事も速い。
専ら、臨時的に勤務しているのは若い子だが、ここは業務重視の課。誰かの推薦だったようだが、流石に仕事のスピードも違う。

ニコニコしてると美人なのに、喋る内容は理系か...って思える効率重視論。見た目もモデルのように長身でさらにヒールを履くからたまに俺より高いが、細身で...胸はある...。容姿だけでも簡単に引っかかってしまう自信がある...。我ながら単純だが、いい歳した俺がちょっかい出すにはちと勇気がいる。

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