仕事も恋も効率的に?

★近距離の気持ち★

翌日。

『ちょっと頼みたいことある』
『っ!!!!』
『...あれ...?』

昨日あんなにドキドキさせてきた相手は、極々普通に仕事を振ってくる...。
あのドキドキは、なんなのマジで...涙。
コウさんにとっては茶飯かもしれないけど、私にとっては...。

『忙しかったか?』
『いーえ?なんでしょう?』

なんだよ、ちょっと怒ってる。
みちは結構分かりやすいから、目線を合わせない時は忙しいか怒ってる時。なんだよ、昨日ので怒ってんの...?

『...なーに怒ってやがる』
『え...!』
『なんだよ』
『怒ってない』
『嘘つけ。全然コッチみねーし』
『む...』

ちょっと睨みながら、立っている俺を見上げる顔はちょっと困ってる。そんな顔も可愛いと思える。でも、笑顔が1番かわいい。

『やっとこっち見た。お姫様はご機嫌悪くて俺の仕事は、いらない?』
『なっ!やります!下さい!』

突然パッとニコニコしたと思えば、自分で気づいたのか照れてるのが、またたまんねぇなぁなんて思う。

『ちょい貸せ』

後ろから操作するコウさんの香りと体温がわかる。こんな感じで接されると、とてもじゃないがクールぶるのも無駄になってくる...。
細い指が触れてるマウスがちょっと羨ましい。

『ん。これ、俺のまとめたやつな。これを時系列でダブってるとこ抜かしてくれ』
『あっ、はい、わかりました』
『例えば...』

.......
あれ。俺作ったのがズレてる...?汗。
ちょっと大人しくなってたみちが、画面を見つめると顔つきが変わる。
こーゆーとこもギャップがあっていいんだよなぁ、なんて惚けてしまう。

『...佐川さん...これ、ちょっとズレてません...?』
『あ、あぁ...やっぱり...?』
『...たぶん...。近似値が外れすぎてるかも...』

ニアリーイコールであるはずの数字がガタガタとズレる。

『...最初からやれるか...?』
『...え...』
『...ココにデータ入れてあるから、頼む!』
『...了解です。やっておきますね』

膨大なデータ処理を始め、こーゆーのはAccessでやりゃ速いのに、Excelだからまた面倒臭い。
つぅか、なんでこんなガタガタデータにしたの、もう!

黙々と作業してると、終業チャイムがなり、カタカタと周りが帰り出す。

『まだ帰んねーの?』
『ん...もーちょいでベースできるからそこまでやったらかえります』
『んじゃ付き合う』
『え?大丈夫ですよ?もう少しだから...』

パタパタっとタイプしながら、真剣な横顔に見惚れる。
隣のデスクに座り、明日回すであろう、みちの起案書のバインダーに目を通す。

『んじゃ、お先にー』
『お疲れ様です』
『お疲れ様でしたぁ』

最後まで残っていた同僚が帰り際に。
『佐川くん?』
『?』
『よかったね 笑』
『...な!!何言ってっ...!』

慌てて黙らせようとしたが、みちは黙々と仕事に夢中。

『照れちゃって 笑。んじゃ、帰るわ!本田さん、お先ー!』
『うぃーす!』
『...お疲れっす...』

結局、二人っきりの職場。しんと静まる課内。
俺って、そんな分かりやすいのか...。当の本人が鈍感なのか...。

まだかかりそうなみちを見て、また起案書に目を通す。

『...ペン』
『...ん...ちょと待って下さいね...』
『...ったく...』

みちのデスクに転がっているペンを取ろうとし、手が触れる。

『ん?!』
『わり、ちょい借りる』
『ん、ごめんなさい。どうぞ』

ちょっと恥ずかしがりながらも、自分のお気に入りのペンを差し出しながら、やっと目が合う。

『...ん?どしたんですか?ソレ、なんか変なとこありました?』

ちょっと困った顔で手に持ったバインダーに目を落とすみち。
近づいた距離、香りが心地いい。

『ん、ちょっと直しとくから、早く終わらせろ』
ポンポンと頭を撫でると、頷いて少しパソコンに向き合う。

『お待たせしました!終わりました』
『ん、お疲れ様。ありがと』
『いえいえ、まだ終わってないけど明日またやりますね』
『ん、頼む』
『で、これ、どこ変でした?』
手に持っていたバインダーを奪い、ふむぅ、と自分で書いたものを読み直す。

『これは、この方がいい。これは、こう』
『ふむ、なるほど。ありがとうございます。直しますね』

分厚い書類を見ながら、パラパラと前回のものと比較しながら納得している。

『あとは変なのなかったですか?』

俺の手に戻ってきたバインダーを、また覗き込んで首をかしげながら聞かれる。

『っ...』

綺麗な目元。大きな黒目に見つめられる。
もっと近くに...と髪に触れてしまう...。

『??』
『...っのさ...』
『はい?』

オンモードのみちはひどく鈍感で、少しは俺がいる意味を感じて欲しいと思ってしまう。

『どしました?どこです?』
ペンをくるくる回し、指摘事項を書こうとまた見つめられる。

『...あの、さ...』

このまま抱きしめるか、いや、まずは言葉に出さないと、と1人葛藤する。

『お疲れ様です!すみませーん!そろそろセキュリティかけたいんですけどもぉぉ』
『あ、すみません!すぐ出ますね!』
『お願いしまーす!』

そんな俺の覚悟は、警備員によってあっさりもぎ取られる...。

『佐川さん、明日にしましょう。帰りましょ!』
『...あ、あぁ...』


警備員め...。
あたり所は違うが、物凄くバツが悪い俺は、仕方なく帰り支度をする。
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