今夜、夫婦になります~俺様ドクターと極上な政略結婚~


「結婚したからと言って、俺のことを好いてもらわなくても構わない。表向きは夫婦。でも、おたくは今まで通り掃除の仕事でもして、好きに生きればいい。もし好きな男が出来れば、その関係も認知する」


視線をさまよわせる沙帆を、怜士は自分を見ろと言わんばかりにくいっと顔を上げさせる。

近距離で目と目が合って、不覚にもどきんと胸が高鳴った。

このまま流されてはまずいと焦燥感に襲われ、沙帆は「と、とにかく!」と声を上げ、顎を掴んだ手から逃れるように一歩身を引いた。


「そんなの、どうかしてる……変よ、そんなの普通じゃない……」


怜士の射抜くような視線に耐え切れず、沙帆はくるりと背を向ける。

池の中を優雅に泳いでいく鯉に目を落とした。


「これだから、医者は嫌なのよ……」


うんざりとした気持ちから、つい心の声が口をついて出ていた。

沙帆はそれにも気付かず、ため息混じりに小さく息を吐き出す。

その時、離れたはずの怜士の手が沙帆の腕を掴み取り、力強く引き寄せられた。

< 67 / 247 >

この作品をシェア

pagetop