ハイド・アンド・シーク
カクテルのような


「では、二週間後に控えたコンペに向けて、我々もどんどんテンションを上げて親睦を深め!そしてうちの会社を選んでもらえるよう誠心誠意心を込めて取り組んでいきましょう!今日は飲むぞー!かんぱーい!」


盛り上げ役という言葉がぴったりな幹事の越智さんの乾杯で、宴会は始まった。
声の大きさはお店の人たちよりもよく通り、そのぶん他のお客さんもこちらへ注目を寄せる。彼はそんなのお構い無しのご様子だ。

次々に運ばれてくる料理。テーブルに所狭しと並べられていく。
まだまだ下っ端の私は、ひたすら料理の取り分けをする。

いつもの会社の飲み会なら、人数がかなり多いので居酒屋を貸し切ることもあるのだけれど、今日は座敷席を占領するに留まった。
和食中心の居酒屋は、肌寒くなってきたこの時期にぴったりの鍋をバーンとポスターに掲げて打ち出していた。

ぐつぐつと煮立つ、塩ベースの鍋料理は鶏肉がとても美味しそうだった。


「鍋にビール、最高の組み合わせー」


と、隣で茜がニコニコと楽しそうに私にもたれかかる。
彼女はかなりお酒に強いので、これでも全く酔っ払ってはいない。先ほどまで部長にビールを注ぎにいってちょっと捕まってはいたけれど。

そうだね、なんて相槌を打ちながら、取り分けがひと段落して私もようやくレモンサワーに口をつけた。


部長の隣でビールを片手に談笑している有沢主任を眺めて、さすがにあそこに行く勇気はないな、と自嘲気味に小さく笑う。

二人のそばにはしっかりとすでに女性陣がくっついていて、グラスが空になれば次はどうしますかと問いかけている。
部長は四十代半ばだけど、二十年前は絶対にモテているに違いないと思えるくらい容姿が整っていて、彼に憧れを抱いている社員も少なくはない。
まぁ、もうすでに妻子持ちだから深い意味はないだろうが。


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