夏奈とアキラが部屋でテレビを見ていると、受験のCMが流れた。

「夏奈って文系選択にした? 理系選択にした?」
「理系選択にしたよ! ……と言っても、理系苦手なんだけど……」
「へえぇ、すごい! 私理系科目できなくってさぁ……私は文系だよ」
「またー、アキラちゃん理系もできるでしょー」

夏奈は成績優秀なアキラをからかった。

時期は11月中旬。サクラ学園では、中学3年の冬から、放課後のみ文系と理系に分かれて授業を受ける。この学校は、他の学校よりも授業進度が遅いため、早めに分かれるのだ。

先日、夏奈のクラスでも文理の希望調査があった。夏奈は国語や英語が苦手なため、理系を選ぶことにした。

「いやいや……」

相変わらず謙虚な姿勢を見せるアキラ。彼女は夏奈より2つ年上で、文系選択である。高校2年ということもあり、本格的に受験勉強をしているそうだ。

夏奈はふと、あることを思った。

「あ、黒宮君はどっちにしたんだろ?」

そう言って、手元にあるケータイを開けてみる。こんなことでメールしてもいいのかな……と迷ったが、勇気を出して送ることにした。やはり、彼のことをもう少し知りたかったのだ。

学校ではそこまで話さない。1日に1回か2回、夏奈が挨拶をする程度だ。だからこそ、放課後の彼の様子が気になって仕方ない。



『こんばんは! 黒宮君はこの前の進路希望調査、どっちにした?』



何度も内容を読み返した後、送信ボタンを押した。この癖はまだ直らない。

「早く返ってくるといいなぁ……」

夏奈は返信が待ち遠しかった。返信が来るまでの待ち時間は、うずうずもするし、幸せでもあった。そんな夏奈を、アキラはニヤニヤしながら見つめていた。



5分後、着メロが鳴った。夏奈は急いでケータイを取った。

「今日は前よりも早い!」



『こんばんは。僕は大学進学希望にしたよ。あと理系選択にしたよ。暁さんは?』



夏奈はほころぶ顔を手で隠した。また共通点。些細なことでも嬉しい。しかも疑問形で返信してくれたことに、夏奈は喜びを隠せない。アキラもその様子を察し、夏奈のケータイへと身を乗り出す。

「えっへへ……えっと、何て返信しようかな……」
「いい感じじゃーん! ていうか、『こんばんは』なんてメール独特の表現よねー」
「そうだよねー、それにメールだと長文で書いちゃうし」

夏奈は再び文字を打ち始めた。アキラはスマホを持っており、メールよりもSNSをよく使うようだ。確かに、長文なのはメール独特なものかもしれない。



『私も全く一緒! 来週の放課後から授業も始まるし、頑張らないとね!』



他に書くことはないかな……その思いから、1つの考えが思い浮かんだ。それは、勉強を教えてもらう、という案だ。普段は、アキラに教えてもらうことが多い。しかし、アキラは文系のため、今後授業内容も変わってくるであろう。同じ学年で、同じ理系選択の黒宮なら……。

断られるかもしれない。だが、送るだけ送ってみよう。夏奈はまた指を動かした。



『私勉強苦手だから、放課後の授業もちんぷんかんぷんになると思うんだー(笑) もしよかったら、今度教えてくれないかな?』



打ち終わってから、ちょっと強引かな……と心配になったが、意を決して送信ボタンを押した。



それから5分して、また返信が来た。嬉しさと同時に緊張が襲う。やっぱり断られてるかな……と、恐る恐るケータイを見た。心臓がバクバクと鳴るが、必死に両手でケータイを持つ。



『一緒なんだね。頑張ろうね。僕勉強全然できなくて、教えられないこと多いと思うけど大丈夫? 逆に僕も教えて欲しいくらいだよ』



きゅうううん、と夏奈の思考が停止した。黒宮に応援されると、悩みが吹き飛んでしまいそうだった。黒宮との勉強シーンを想像しただけで気絶しそうだ。



『ホントに!? 私も全然できないよ!(笑) でも私でよければ、私のわかる範囲内で教えるね! 全部わかんないってなるかもしれないけど(笑)』
『それは助かるなー。僕も教えられるところがあれば教えるね』
『ありがとう! お互い教え合おうか! とりあえず頑張ろ! 夜遅くにごめんね(><) おやすみ(-_-)zzz』
『いえいえ。おやすみ』



今日は前よりも長くやり取りが続いた。夏奈は何度もその流れを見ては、頬を緩ませた。

アキラは夏奈にやり取りを見せてもらうと、手で口を覆って微笑んだ。

「やばい! 黒宮君ってメールだとこんなに喋るんだー。夏奈、やるじゃん?」
「へへ……」

アキラに肘でつつかれながら、夏奈はケータイを胸の上で抱きしめた。

胸の鼓動が、優しく刻まれる。教室ではまだまだ話せない2人。だが、メールを通して、もっともっと距離を近づけようとする夏奈であった。