溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜
約束の十分前に外で待っていると、それから五分もせずに穂積課長が現れた。


「おはよう」

「おはようございます」


運転席の窓から顔を出した課長に頭を下げれば、「ほら乗って」と助手席を指差されたから、助手席側に回ってドアを開けた。


「お邪魔します……」

「どうぞ」


クッと笑った穂積課長は、きっと私が緊張していることを見透かしている。
だけど、なにを言っても敵わないことは今日までのやり取りでよく理解しているつもりだから、あえて触れないことにした。


「美術館とか好き?」

「え? えっと、そうですね……」

「無理しなくていい。苦手なら別のところに行くから」


言い淀んだ私に、課長がフッと瞳を緩めた。

たしかに、普段は美術館なんて行かないけれど、興味がないわけじゃない。
ただ、今まであまり機会に恵まれなかっただけで、行ってみたいとは思う。


そんな気持ちを素直に告げれば、穂積課長が「そうか」と破顔した。
零された笑みについ胸が小さく高鳴って、柔らかな微笑みで前を見つめている課長の横顔を盗み見るようにしながら、少しだけドキドキしていた。

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