溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜
なんて意地悪な言い方だろう。
そもそも、明らかに思わせ振りな態度を取っておいて、今のはあんまりだと思う。


「わ、わかってます! 別に、キスするなんて思ってませんでしたから」

「ふーん、そう。まぁ、そういうことにしておくか」


咄嗟に見え透いた嘘を吐き捨てた私に、穂積課長が口元を緩める。
いつもいつも振り回されてばかりなのは悔しいから今くらいは見栄を張ろうと思ったのに、課長はそんな私の心を見透かすように甘い笑みで口を開いた。


「俺はしたかったけどね」


「残念」と口角を少しだけ上げた穂積課長が、ドアをゆっくりと開ける。
落とされたばかりの言葉をすぐに処理できずにいると、意味深な微笑みを残した課長はドアの向こう側に消えた。


なにあれっ……!


きっとまた、からかわれているだけ。
自分自身にそう言い聞かせながらも鼓動は忙しなくて、ようやく理解が追いついた思考が置いていかれた言葉の意味を理解した時、頬が緩んでいくのを止められなかった――。

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