溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜

【2】「大切なものを譲るわけがないだろ」

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春の陽気を忘れ、初夏の陽射しに目がくらむようになった頃。
忙しい日々を過ごしている俺は、今朝も誰よりも早く出社した。


玄関先で見送ってくれた莉緒は、瞼をこすって眠そうにしていたが、あと一時間もすれば顔を合わせることになるだろう。
何度『俺に合わせて起きなくていいから』と伝えても、毎朝必ず見送ってくれるところも愛おしい。


今までは、こんな感情を抱くことはあまりなかったと思う。
もちろん、過去の恋人をないがしろにしたことはないが、それでも彼女に対する感情はもっと深いものだと感じていた。


どんなに疲れていても、莉緒が笑顔で出迎えてくれるとホッとする。
父の跡を継ぐためにこなす慣れない業務ばかりの日々にへこたれそうになっても、朝起きて彼女の顔を見れば今日もまた頑張ろうと思える。


これまでとはまったく違った感情は、俺を強くしてくれるような気がするから不思議だ。
だけど、莉緒がいれば大丈夫だと言い切れるくらいには、彼女の存在は俺の中で大きくなっている。

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