肌を撫でる空気がきりっと冷えている。
今年の冬は寒いらしい。冷えた鼻先をマフラーに(うず)めて歩いた。
かつん。かつん。
新しいブーツで歩くたびに鳴る踵の音は、広大な大学のキャンパスのざわめきに吸われて消える。
「水鏡」のアルバイトで溜まったお金で、わたしは少しずつ自分への投資を進めていた。
自信に満ちてXデーを迎えられるよう、最近のわたしは自分磨きに余念がない。

「だーいぶ垢ぬけたよね~、渚」
語学のレポートを提出した足で学食を目指しながら、麗子が言った。
「え、そうかな」
自覚はあるくせに、わたしはとぼける。
髪の巻きかたも上手くなったし、ネイルサロンにも通うようになった。服も靴も鞄も、自分に似合うものを選び抜いて買いそろえている。バイトのない日は香水だってつける。
外見ばかり飾りたてても中身がなければしょうがないので、最近は店休日の水曜日に英会話のレッスンも受け始めた。
「垢ぬけたよねー! 入学当初はどっかイモっぽかったもん」
「そうそう、イモっぽかった」
「ちょ、ひど!」
未樹と麗子の軽いdisりに、わたしは拳を振りあげる。
「やっぱ恋愛の力ってすごいんだね」
麗子にしみじみ言われて、拳は行き場をなくした。