片想いは、コーヒーの香りがする。

こぽこぽこぽこぽこぽこぽ。
荒めに挽いたコーヒーの粉の中に、熱湯が注がれてゆく。
「の」の字を書くように、中心から外側へ。
芳醇な香りが店内に行き渡り、コーヒーがドリップされてゆく澄んだ音が聞こえ始める。
丁寧に丁寧にコーヒーを()れる店長のその手つきを、わたしはじっと見ていた。

「渚ちゃん、見すぎ」
店長が笑って言う。ポットの先から一瞬も目を離さないままで。

お湯で湿って蒸されたコーヒーの粉は、こんもりとまるく膨れ上がる。
このハンバーグのような形状を作りだすのが重要で、コツのいる難しい作業だ。
わたしのスキルでは、まだまだ店長や先輩たちに及ばない。
せめてその技術を目で盗もうと、わたしは今日も店長をじっと見つめる。

──たった一度だけ触れ合った、その唇も含めて。