ぽたり。ぽたり。
透明の耐熱マグに落ちてゆく琥珀色の液体に、わたしは心奪われていた。
ぽたん。ぽたんぽたんぽたん。ぽたっ。
マグに乗ったアルミのフィルターでドリップされたコーヒーが立てる微かな音は、昔鍾乳洞の中で見た水琴窟(すいきんくつ)みたいで――。

「はぁー……」
店長が感嘆の声を上げた。
真剣な目がかわいい。そして、調理台の上のマグを一緒に見つめているものだから、距離が近い。ちょっと頬が熱くなる。
肩が触れそうで触れない微妙な距離を、コーヒーの香りが埋めてゆく。

「おっけ」
コーヒーが落ちきったところで、辻さんがマグの上からフィルターをどけた。
マグの底にあらかじめ絞られてあった練乳の白とコーヒーの茶色、くっきりと二層に分かれた飲み物ができあがった。

これが本式のベトナムコーヒーなのだという。
例によって海外旅行休暇を取りベトナムから帰ってきた辻さんが、豆とフィルターをお店に持ってきたのだ。
甘くほろ苦く深い香りは、初めて嗅ぐ種類のものだった。