大事にされたいのは君
君はクラスメイト

君の相談に乗る



「じゃあ由梨ちゃん、また明日〜!」

「うん、部活頑張って」

今日も元気に部活へと向かう友人を見送って、私は明日の課題を机に広げた。毎日忙しそうなテニス部の彼女とは違い部活に所属していない私は、放課後に残ってやる事なんて何も無い。けれども何だかんだと家に帰らずここに残る事が日課となって、今日も気づけば私しか居ない教室が出来上がっていた。
そう。それは、暇潰しにも近い明日の課題もついにやり終えてしまったような、ちょうどそんな頃合いの事だった。

「あれ?吉岡さんじゃん、こんな時間に何してんの?」

忘れ物でも取りに戻ってきたのか、クラスの男子が教室に入って来た。

「…瀬良君」

声を掛けられた驚きから、図らずとも彼の問いかけを無視した形になってしまう…でも、それも仕方がない。同じクラスとはいえ、彼とはまだちゃんと話した事すら無かった。常に真っ先に沢山の友達と帰って行くようなこの人がこんな時間にまだ残って居るなんて、しかも声を掛けてくるなんて思いもしなかった。

「え、吉岡さんって俺の名前知ってたんだ。嬉しいー」

「いや同じクラスだし…というか、 君の名前を知らない人なんて居ないよ」

赤めの茶色に染めた髪が軽そうな印象を与える彼は、髪以外でもやたらと目立つ。背が高く、小顔に長い手足とスタイルが良い上に、話し上手で人当たりの良い性格と来たものだ。彼が口を開くとパッとその場が明るくなり、周囲にはいつも男女問わず人が集まっている。多分同じ学年のほとんどの人間が彼と知り合い以上の関係だろうと思う。

彼の名前は瀬良 透(せら とおる)。

名前を知らない人はこの学年には居ない。存在を知らない人は、この学校には居ない。…多分。
知り合いの少ない私には絶対と言い切る為の証拠みたいなものが無いけれど、知り合いが少ない私ですら分かるといえばそれが証拠にもなる気がする。確認は出来ないけれど間違ってはないと思う。

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