恋・愛至上命令。
贔屓にしてる、馴染みの料亭に警護も合わせて車三台で向かい。
お座敷に通されてじきにお母さんも合流した。藤色の訪問着を着て髪も結い上げたお母さんは、娘の私から見ても粋なお姐さんだ。

「瀬里にお見合い? 百年早いんじゃありませんか」

口許に手をやって艶やかに笑いながら。お母さんは、お父さんに何気に毒を吐く。

「まだ23歳の小娘なんですから、もっと色々な男を知ってからでも遅くありませんよ。ねぇ瀬里?」

「あー・・・うん。そう思う」
 
今でも現役のクラブのママで、その昔ホステスだった頃、何年も通い詰めたお父さんがやっとのことで口説き落としたらしい。力関係はどっちかと言えばお母さんが上。

「相手が堅気さんだろうと、瀬里が選んだ人なら黙って見守ってやるのが親ですもの。武史(たけし)さんは度量が大きくて、本当に父親の鏡ねぇ。私、惚れ直してしまいました」

褒めながらお父さんを上手く丸め込んでく。・・・さすが瑞恵ママ。

凪を好きなことは、お母さんにはとっくに知られてた。だからって甘やかしてはくれない。

『・・・大島に本気で惚れているのなら、それなりの覚悟をなさい』

家を出る時に厳しいことも言われた。それでもお母さんていう味方は心強くて。困った時は、こうして助け船を出してくれるのだった。
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