王子様とブーランジェール


危機を感じて一目散に駆け寄る。

桃李の側には、いつもの銀ぶちの眼鏡が転がっていた。

今のぶつかった衝撃で吹っ飛んだと思われる。

桃李の眼鏡が…!



「何やってんだこのバカ!」


素早くその眼鏡を拾い上げ、桃李に眼鏡をかけてやる。


「な、な、な、夏輝ー!眼鏡、眼鏡ないよー!」

「もうかけたぞ!あれほど気をつけろって言ってんのに!」

「あ」


顔の眼鏡を両手で確認すると、「あ、よかったよかった」と、一気に落ち着いた。

ったくよぉ!



そして、転がっているもう一人の方にも声をかけた。

ある意味被害者。



「嵐さん、大丈夫ですか?」



嵐さんは座りこんだままで答える。

「竜堂くぅーん、痛いー」

…さっきとはまたまた随分と違う声だな。

さっき桃李に怒鳴り付けた時は、すごいドスがきいていた。


と、思いながら、嵐さんに手を貸す。

俺の手を借りて立ち上がる嵐さんだが…その手を離してくれない。

「竜堂くん、ありがとー!嬉しいー」

そして、腕を絡めてくる。

「ち、ちょっと!」

また密着か!

公衆の面前だぞ!


桃李は眼鏡に手を添えたまま、立ち上がらずにポカーンとこっちを見てる。


「…あ、いけない!糸田先生との約束!」


急に何かを思い出したように、バッと立ち上がり、その場を立ち去ろうとしていた。


…謝罪せずに、去る気か!



重なったイライラに、更にイラっとした俺は、思わず大声をあげていた。



「…桃李おまえぇぇぇっ!謝っていけ!」

「ひいぃぃっ!」



俺の怒鳴り声に反応し、体をビクッと震わせている。



「あ、あ、な、な、夏輝、ご、ごめんなさいぃっ!」

「俺じゃねえ!嵐さんにだ!ケガでもさせたらどうするんだ!だいたいおまえは注意力が無さすぎるんだよ!もっと周りよく見ろ!」

「あ、え、いや、その、だって…」

「だってもへったくれもねえ!…嵐さんに謝っていけ!」

「え、え、えぇっ!」

更に怒鳴られた桃李は目をうるうるさせて泣きそうになっていた。

またか!


途端に、ペコペコと頭を高速で下げ始める。


「す、す、す、すみませんすみません!ぶつかってご、ご、ご、ごめんなさい、ごめんなさいっ!ごめんなさいぃっ!ごめんなさいぃっ!すみません、ごめんなさい、すみませんすみませんごめんなさいぃっ!」


急に勢いよく謝りだした桃李に、嵐さんはちょっとドン引きしている。

謝れとは言ったが。

何回ごめんなさいとすみません言ってるんだ。

ペコペコしすぎて、髪が乱れまくっている。


「な、何この挙動不審…気持ち悪い…」

「ご、ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」


謝りながら、ちょっとずつ後ろに下がっていく。

そして、廊下に出て、謝りながらフェードアウトした。



何なんだアイツは。

何だその退場の仕方。

もう少しちゃんと、スマートに行動出来ないのか。

本当に挙動不審だよ、これじゃ。








baKed.1 eNd
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