御曹司様の求愛から逃れられません!
7.御曹司様の追憶
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──それから二週間。

絢人さんがオーストラリア社へ発ってから、ぱったりと連絡は来なくなった。ゆっくりと真剣に考えて答えを出してほしい、そういうメッセージだと思う。

代わりに現地に同行している樫木さんから、時折国際電話がかかってくる。

「あ、樫木さん。お電話ありがとうございます。お元気ですか?」

夕方七時、仕事が終わって帰る頃を見計らって、今日も樫木さんから電話が来た。ちょうどホットミルクを入れてゆっくりしていたところで、良いタイミングだ。

『ええ。取引先とのトラブルも解消しまして、今はホテルでお休みになっています。口を開けば、早く園川さんに会いたいと呟いていますよ』

元気かと聞いたのは別に絢人さんのことではなくて、樫木さんのことだったんだけど。絢人さんのことばかり話すあたり、樫木さんもいつも通り元気のようだ。

オーストラリアにいても私のことを思い出してくれるなんて、まるで世界中で私だけが絢人さんの気持ちを独占しているような気分になり、胸が鳴った。

「ふふ、そうですか。私も元気にしています、とお伝えください」

『いえいえ、それはできません。秘密で園川さんに電話をしていることがバレたらまた怒られてしまいます。貴女が現れてから初めて知りましたが、志岐本部長は独占欲の塊のような人で……ついつい貴女と飲んだときの話でもしようものなら、本当に怖いんですからねっ……』

「は、はあ、そうですか……。えっと……じゃあ、樫木さんはどうしてわざわざ電話をくれるんですか?」

絢人さんに怒られると泣きじゃくるくせに、樫木さんは意外と反抗的というか何というか。懲りない人だ。

『……一応、園川さんの気持ちが志岐本部長から離れていかないよう、僕が繋ぎ止めているつもりです。僕は彼の補佐ですから。仕事上のトラブルなど何も心配はしていませんが、今一番、志岐本部長の仕事に影響があるとしたら、あなたです』
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