後輩営業は虎視眈々と先輩アシスタントを狙っている

タクシーに乗って

気がつけばタクシーの中で、今も、がっちり左手をつながれていた。

私、行くって言ってないよね!

この場合、目的地は後輩君の家・・・ですよね。


自分の脳とばかり会話していた私は、ふと彼の様子を伺ってみる・・・目が合った!


「やっと、僕のほうを見てくれましたね。でも、いっぱいいっぱいになってるままなら、その方が都合が良かったかもなあ。気がつくのは明日の朝でよかったのに。」


黒い笑みも似合う・・・。

君の後ろに黒いオーラがモクモクと見えるのは気のせいでしょうか。

気がつくのが明日なら、もう取り返しがつかない事になっている気がしますけど・・・。


「ここです。つきましたよ。」


手を引かれるまま、タクシーを降り、高級そうなエントランスを通る。

ロックを解除するとき、長く綺麗な人差し指を小さな画面に軽く当てるのが見えた。

それは、指紋認証ってやつですか?

やっぱりここは高級なマンションなんですね。

新聞配達のおじさんが、直接玄関ドアのポストに新聞投下していく、私の三階建てのマンションとは格が違いますね。


待てよ、営業といっても、私より給料が良いといっても、ここはさすがに家賃が高いと思うよ。

手を引かれて歩きながらエレベータに乗った。

正直この環境で手を引いてもらえるのは、大変心細いのでありがたい。

「あの~、ここの家賃高そうだね。いくらなの?」

到着した階の広めのエレベーターホールを抜けながら、キョロキョロと辺りを見渡した。

「やっと声が聞こえたかと思ったら、質問がそれ? まあ、いいけど・・・ここは賃貸じゃないですよ。」


賃貸じゃないの?


「買ったの?!」

「しー。声が大きいですよ。とりあえず中に入りましょう。」


言われて前を見れば、重厚そうなドアの前。

今度は暗証番号をピピピって。

セキュリティがちゃんとしてますね。

ドアを開ければ自動で玄関内の照明がついた。

それが少し眩しい。




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