政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
4.入籍
慣れというのは恐いもので、彼との交際に段々と違和感を覚えることもなくなっていた。

彼は強引で何を考えているのか時折つかめないところはあるけれど、私が嫌がることはしない。

けれど私はまだ入籍については決断できない。

彼はほかの事柄には意外に柔軟な対応をしてくれるのに、入籍だけは何度言っても頑として譲ってくれない。猶予すらくれない。必ず入籍はする、その一点張りだ。


『絶対に譲らない』


昨夜かかってきた電話で婉曲的に相談した時も、きっぱりそう言われた。しかも入籍の話を持ち出した途端、明らかに不機嫌になった。

多忙だというのに、私に毎日連絡をくれる、その心遣いには感謝している。

彼から必要事項を埋めた婚姻届を随分前に渡されていた。既に証人欄もお互いの両親が記入済みで後は私さえ記入すれば受理されるようになっている。

必要書類もすべて揃っているし、四月中には入籍したいと彼に再三言われている。現在はもう四月の半ばだ。

私はそれをずっと先延ばしにしている。彼のことは嫌いではない。最初の頃こそ、なんて失礼で強引な人なんだろうと呆れて腹も立ったけれど、今となっては私と真逆とも思える彼の自信たっぷりな性格が羨ましくもある。

そんな彼が時折見せてくれる細やかな心遣いや優しさが嬉しい時だってある。言葉は少ないけれど、嘘を言わないところや私の名前を呼ぶ低い声が心地いいなと最近感じ始めていることも確かだ。

だけどそれが入籍する理由になるほどの想いなのかと問われたら自信がない。

そもそもが策略結婚なのだから、そんなことを考えることのほうがおかしいのかもしれない。
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