政略結婚ですがとろ甘な新婚生活が始まりました
5.新生活の始まり
日中はお互い仕事もあり、連絡はほとんどとらない。

彼は私が未だに仕事を続けていることにも苦言を呈すこともない。
けれど出勤と退勤時に私の送迎をするということは頑として譲らなかった。

何を言っても諦めてくれず、了承しなければ結婚式も大々的にするし、会社にも正式に公表するとまで言われて渋々それを受け入れた。


……以前にもこんなやりとりをしたような気がする。


その日以来、私はどこかの深層の令嬢のように彼の秘書の方々に送迎されている。

直接連絡をとらなくても、私の一日の動向はきっと彼らから環さんに報告されているのだろう。

彼らはいつもとても親切で、帰り道に買い物をしたいと言えば受け入れてくれる。特に行動を制限されることも、監視されるような息苦しさもない。


そんなに過保護にならなくても私はもういい大人だし、逃げ出したりしないのに、信頼されていないのだろうか。


私たちの結婚生活は概ね良好だった。

時間が合えば一緒に買い物に出かけることもあった。彼の帰りが早い時には食事を一緒にとる。彼は好き嫌いがなく、私が作った庶民的な料理を美味しそうに食べてくれる。キッチンを自由に使用することも咎めない。

少しずつ会話もするようになり、お互いのことを話すようになった。

緊張してうまく話せない私を彼は気にすることもなく、急かすでも責めるでもなく、ゆっくり待って自然に会話を繋げてくれる。

最初の頃に感じた高慢さや刺々しさもなく、本来の彼はとても思いやり深い人なのかもしれないと思うようになった。


そうやって少しずつ心の距離が近づいても、あの日彼が私に告げた気持ちについてはお互い触れることはなく過ごしていた。
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