愛の囁き☆私は強くない番外編☆
疑惑
「え?香里ちゃん?」

私は拓真さんの腕を掴んで、立ち止まってしまった。
拓真さんが驚いた顔をして、立っていた。

「…帰りたく…ない…」

「え?な、なんて…」

「拓真さんといたい…」

振り返った拓真さんは、私が持っていた腕を離すと、 抱きしめてくれた。
そして…

「そんな事を言ったら本気にするよ?」

「…して…ください」

言ってしまった。
上を向くことが出来ず、下をむいたままの私に、拓真さんは両手で頬を持ち上を向かせた。

「…いいの?泊まるって事だよ?」

黙って頷いた。

拓真さんなら、いいと思った。
初めてをもらってほしい…
最初の人が拓真さんでよかったと、思いたい。

緊張しながら、私の心は浮かれていた。

♪♪♪♪♪♪♪

「あ、ごめん。…っ」

拓真さんの電話が鳴った。
誰からの着信なのか、確認した拓真さんは、出るのを躊躇していた。

「出て下さいね?私、そっち行ってるから…」

「ん、あ、あぁ。ありがと」

拓真さんは、私から離れて電話に出た。

「もしもし、…え?あ、あぁ。なんで今日なんだよ?行くって…」

誰だろう?
行く?
約束してたのかな、もしもしと出た電話の声が漏れてきて、相手の人が女の人だと分かった。

お母さんかな?

拓真さん自身、険しい顔をしていた。


「ごめんね、香里ちゃん。やっぱり今日は帰らないといけなくなったよ」

「誰かと約束ですか?」

「……ん?い、いや。母親から、ちょっと来いってね、ほんとごめんね」

そう言いながら、 顔の前で手を合わしていた。

ちょっと肩透かしをくらった気もしたけど、今日はもしかして、行かなくてよかったのかも?そう思う事にした。
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