ビーサイド
怒涛の誕生日

「頼むから、別れてほしい」

28回目の誕生日に言われたのは、祝福の言葉でも永遠の誓いでもなく、別れの言葉であった。

「え?」

観覧車の中、2人きり。

私の素っ頓狂な声と、洋介の鼻をすする音だけが響く。

「他に好きな子ができた」

― へえ。そっち取るんだ。

彼の浮気には前々から気付いていた。
それは別に私が鋭いわけでも、女の勘が働いたわけでもない。

単に、彼は嘘が下手なのだ。

ただ、まさか浮気相手に本気になっているとは思いもしなかった。
それは、私たちの12年という歳月が、揺るぎないものだと信じて疑わなかったからだ。

「私より好きなんだ?」

震えた自分の声に驚いた。
まさかの事態に、もしかして泣きそうになっているのだろうか。

「朱音のことはなんかもう…好きとかじゃない」

決して合わない目線は、彼の言葉を裏付けていた。

観覧車が地上につくと、ごめん、という一言とお揃いの指輪を残して、彼は足早に降りていった。

「こんなの置いてってどうするのよ…」

なんで私が持って帰らなきゃいけないのか、そんな思いもあったが、公共の場にこんなもの残していくこともできない。

仕方なく私はそれを持って、もうとっくに見えなくなった彼の背中を探してみたが、それはやはり見つからなくて。

― とにかく今は家に帰ろう。

妙に冷静に電車に乗った。


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