ビーサイド
騙される覚悟

『だから、三ツ矢が好きだって言ってんの』

真夏の炎天下
砂煙の舞うグラウンド
うるさいセミの声
日焼けした肌に映える白のユニフォーム
汗の滴る、目にかかった前髪

『ちゃんと好きだから』

嘘みたいに赤くなった洋介の顔

目が覚めたとき、それが夢であったことに胸が張り裂けそうになった。

思い出はいつまでも美しい。
いや、年々美しくなっていく、というのが正しいかもしれない。

大きく数回深呼吸をして、寝返りをうって驚いた。

そうだ、昨日。

涼くんの寝顔に、昨晩の記憶が蘇ってきた。

まるで壊れ物に触れるように優しく、丁寧に、あんな風に洋介にされたことなんて一度もなかった。

それはなんだか、自分が大切に扱われているような錯覚さえ起こさせて。
キスをしたところまでは、わずかな罪悪感みたいなものを抱いていたが、そんなものはあっという間に消えてなくなってしまっていた。

― なんか、幸せだったな。

涼くんの柔らかな髪に触れると、あっという間に昨日に引き戻された。

しかし冷静になれば。

彼の向こう側には、やけに可愛い小人の踊る絵柄のカーテン。
このシングルベッドだって、男性が選ぶとはあまり思えない淡い水色のシーツに、同じ色味のギンガムチェックの布団カバー。

特別な誰かがいるのは、明白であった。


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