あなたの愛になりたい

時は10月も暮れのとある日曜日。
とんがり帽子に箒を抱えたミニスカートの魔女や、やたらとスムーズに動く陽気なガイコツさん、マントを靡かせ仮面を着けたファントムに、虎柄のショートパンツにブルーのウィッグの長い髪、そこからちょこんと見える角を着けた女性まで、とりどりの様相が街に溢れている。
一見すると、異様な光景だ。
けれど時の流れとこの国は“異文化”というものをうまく取り入れ、独自の色を加えたようだ。

ハロウィーン。
万聖節の前夜祭(all hallows'eve)という意味合いを持つことを一体どれだけの日本人が知っていることだろう?
秋の収穫祭である万聖節の前夜にご先祖様や精霊と共に悪霊までもが甦ると言われて、悪霊から身を護るために霊に扮したというのがそもそものハロウィーンの始まり。
それから宗教的なアレコレを経てお祭り色が強くなった現代のハロウィーンに繋がるわけだけれど……
時を越え、海を越えて独自の文化が形成されつつあるこの国のハロウィーンではあるけど、さすがに虎柄ショートパンツに角を生やしたブルーの髪ってのはただのコスプレではなかろうか?

「なんていうか、ハロウィーンって名目のコスプレイベントですよね、もはや」
「そうは言ってあげるなよ、佐川さん。彼らは大事なお客さんだ」
「そうですねぇ」

見上げた店内の黒板には“ハロウィーンコスプレのお客様歓迎!合言葉で1ドリンクサービス☆”なんて書かれている。
合言葉は言わずもがな、Trick or Treatである。
私だってハロウィーンがなんたるかなんて大学に入るまで知りもしなかったわけだけれど、漫画やアニメのキャラクターで霊達に紛れることは果たして可能なのか疑問だ。


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