癒しの魔法使い~策士なインテリ眼鏡とツンデレ娘の攻防戦~
初めての戸惑い
病院で処置を受けていると、慌てた光琉と遙季の母親が待合室に駆けつけてきた。

「遙季!」

「もう、どういうことなの?5針も縫ったなんて」

光琉も遙季の母:祐子も心配そうに遙季の腕を見つめた。

「大したことないよ。はる,き,,,真島くんが助けてくれたから」

遙季は横に座る悠生を2人に紹介した。

「まあ、あなたが真島くん。遙季を助けてくれたのね。ありがとう。それに、あなたも肩を刺されたんですって?本当にごめんなさい」

祐子は悠生の右手を両手で掴むと拝むようにお礼を述べた。

「俺は別に,,,」

悠生は照れ臭そうに笑った。

悠生は、真っ黒でストレートの黒髪、眉にかかる前髪が少し鬱陶しいが、後ろ髪とサイドは短く切り揃えており、パッと見は好青年、しかし目付きが悪い。

K高校から50kmほど離れた地区に位置する中学校を卒業した悠生は、当時、裏で喧嘩をしたりと素行が悪かった。

しかし、成績はいつも10番以内であったため、恩師の薦めもあり、知り合いのいないこの地区の高校に進学し、寮に入って心機一転する予定だった。

事情を知る遙季は、悠生を今回の事件に巻き込んでしまったことをひどく後悔していた。

同じ県内なので、県警から目を付けられている悠生の評価が下がらないかと気に病んでいたからだ。

「ごめんね。悠生」

「気にすんな。お前が無事で良かった」

見つめ合う二人を面白くなさそうに見ていた光琉が、突然声を荒げて言った。

「なんで,,,1人で勝手に帰ったんだよ」

「なんでって,,,」

遙季は光琉の方に目をやると、その言葉が本心であることを悟った。

光琉が帰れと言っていないのなら、あの中村の伝言はなんだったのか?

遙季は真相がわかるまでは沈黙を貫くのが妥当だと判断し

「,,,ごめんなさい」

と素直に謝った。

「っ!,,,。わかればいい」

光琉は悔しそうに目を逸らした。

黙り込む4人に警察官が声をかけてきた。

「それでは署に御同行願います」

悠生と遙季はパトカーに乗り込む。

「お母さんだけ署においでください。署にも守秘義務がございますから、親御さんだけ同席を許可しています」

一緒に行くという光琉を、警察官がやんわりとでもしっかりと拒否した。

「じゃあ、光琉くんはタクシーで帰ってね」

祐子は待っていたタクシーに前払いで料金を渡すと、押し込むように嫌がる光琉をタクシーに乗せた。

真相がわからない遙季は、光琉がいなくなって正直ホッとしていた。
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