翌日。光琉と遙季は雪村宅に来ていた。

「おばさん、おはようございます」

光琉は雪村家の玄関を開けると、遙季を引きずりながら、ずかずかとダイニングまで移動した。

「あら、光琉くん、いらっしゃい。遙季も一緒なの?珍しいわね」


リゾートホテルでの甘い一時も束の間、遙季は光琉の容赦ない一言で叩き起こされた。

「遙季、起きろ。寝てる場合じゃない」

暖かな羽毛の掛布団を剥がれ、遙季の艶やかな裸身が露になる。

普通、情事の後は、抱き締められて甘い言葉でも囁くものではないのか?

「ちょ、ちょっと!寒いし恥ずかしい,,,」

「何?誘ってんの?」

光琉は、横たわって丸くなる遙季に覆い被さってキスをした。

「ん、やだ,,,」

「期待させて悪いが、それはまた今夜な。早く着替えろ」

呆気なく離れた光琉に驚きながら、遙季は投げられた衣服を呆然と眺めた。

「チェックアウトまで、まだ時間があるでしょ?」

四方の窓からは暖かな太陽の光が差しこみ、海に反射してキラキラと宝石のように輝いている。

ホテル自慢の温泉にだってまだ入っていない。

「さっさと実家に帰るぞ」

「えっ?実家に?私は行かなくていいよ,,,。この間帰ったばかりだし。光琉は先に出て。私はタクシーと電車を乗り継いで帰るから」

眠そうな遙季は、下着だけ身に付けると、再びベッドに戻ろうとして布団を被った。

「遙季も行かなきゃ意味がないんだよ!」

再び、掛布団を捲る光琉と死守する遙季,,,。


その攻防戦を経て、現在に至る。

「何?ようやく落とせたの?」

「はい、8年かかりましたが、お待たせしました」

光琉と母・祐子の話に、遙季はチラッと目線のみを向けてダイニングテーブルのイスに腰かけた。

「二人もぐるなの?」

もう、何も驚かない。張り巡らされたクモの巣にかかった獲物は、じっと食べられるのを待つしかないのだ。

「人聞きが悪いわね。私はただ、息子になるのは光琉君がいいなって思ってるだけよ」

「今日はその夢を叶えに来ました」

光琉の言葉に、祐子は目を輝かせて、庭にいる遙季の父を呼んだ。

「ちょっと、あなた。早く来て。遙季と光琉くん、ようやくだって~」

眼鏡をクイッと持ち上げて、光琉も遙季の横に腰かけた。

「な、何?何が始まるの?」

ニヤリと笑った光琉の顔に嫌な予感がする。

今日は土曜日。波乱万丈な週末はまだまだ続く。

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