癒しの魔法使い~策士なインテリ眼鏡とツンデレ娘の攻防戦~
ストーキングの境界線
「中村若菜って知ってる?」

遙季は、突然告げられたその名前に驚いて努を見上げた。

「,,,。はい、知ってます」

「あの子は僕の幼なじみなんだよね」

テーブルに運ばれた黒ビールのグラスを持ち上げて、「乾杯」と言いながら努は微笑んでいる。

「僕も君達と同じ高校に通ってたんだよ?知らなかっただろ?」

「、、,すみません」

光琉や若菜と同じ年ということは、遙季が1年の時の3年生。

遙季の知る3年生は光琉と若菜、美術部の先輩位で、当然、努のことなど知るよしもなかった。

「高校1年の頃から若菜はずっと八代のことが好きでさあ、しつこく付きまとってたけど相手にされなくて怒ってた」

クスクスっと当時を思い出して笑う努は何を考えているかわからない。

「それなのに、高校3年になって、八代の隣に雪村さんが登場。君達は美男美女のカップルではあったけど、若菜も美人でモテてたから、君に負けているとは思いたくなかったんだろうね」

遙季は努の伝えたい意図を測りかねて、言葉を待つ。

臨床心理士として、これまで色々な症例に対峙してきた。そのプライドが不安に負けてはいけないと、遙季は自分を自制した。
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