【最愛婚シリーズ】クールな御曹司の過剰な求愛
……のだけれど。

「あぁ……今日もダメでした」

 ケイウエディングの応接室でがっくりとうなだれた。そんなわたしを哀れみの目で見ているのは、坂上さんだ。

「残念でしたね。よかったら、これどうぞ。サンプルでいただいたものなんですけれど」

 差し出されたのは、焼き菓子のフィナンシェだった。

 沈んだ心に甘いものはうれしい。わたしは遠慮せずにいただくことにした。

 あの日の模擬挙式以来、今日を含めて三度ほど提案をしているがいずれも、見事に撃沈している。

「この程度の提案しかしていただけないなんて、残念です」

「ずいぶんと目先のことだけお話されるのですね?」

 などと、的を射ているけれど傷つく言葉でお断りされることの連続だ。

 神永さんレベルの人間を納得させるなんてなかなか難しいんだろうな。

 自分が落とそうとしている相手のレベルが高すぎる。ハイキングしかしたことがないのにいきなりエレベストに登ろうとしている気分だ。

 こんなことになるなら、最初に会社に訪ねてきてくれたときに、さっさと口座だけでも開設してもらって入金だけでもしてもらうんだった。

 そうすれば動きがなくても、新規の獲得件数にはなるし、課長もここまで執念深く色々と言ってこなかっただろう。

 ダメダメ! ちゃんと納得してもらわないと意味がないんだからっ!

 数字に追われて大切なことを忘れてしまってはいけない。自分を戒めながら、出されたお菓子を食べる。
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