愛のない部屋

甘い毒


旅行2日目の朝。


ひとつの布団で寄り添い眠ったせいかいつもより深い睡眠がとれたと、清々しく1日の始まりを迎えた。

はず、なのに。


「もう少し寝るぞ」


峰岸は私を解放しない。

起きる時間だと厚い胸板を叩くとより一層、抱きしめる力が強まった。


「眠いっ……」


「女性は男よりも準備に時間がかかるの。だから放してよ」


「嫌だ」


なんだこのガキみたいな反応は……。


文句を言おうと口を開けば、



「ずっと、こうしていたい」

なんて甘い台詞。



「……」



毒を浴びて感覚が麻痺する前に、布団から抜け出そうとすれば


「おい!」



いきなり扉が開いた。



「おまえら……」



私たちを見下ろし、タキはすぐに目を逸らした。



「滝沢さん、どうしたんですか?」



焦りもせず上半身を起こした峰岸に続き、私も起き上がる。



「起きたら、舞がいないんだ……」


「温泉じゃないですか?」



こんなに落胆したタキを初めて見た。



「私、見てくるよ」


「悪いな」



目覚めた時に大好きな人がいない寂しい気持ちは私にもよく分かる。

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