「たったこれだけのことに、どれだけ手間をかけさせる気だ!?」

コツコツと音を立て、目の前に立つ銀縁眼鏡の男がカウンターをイライラと指で叩く。

「す、すみません!
今度こそ、ちゃんとした用紙を持ってきますので……」

ひたすらぺこぺこと男にあたまを下げた。
彼が怒っているのは当然だ。
ものの五分とかからない手続きなのに、もう十分以上たっているがいまだに完了しないのだから。

「もう新入社員というわけじゃないんだから、しっかりしてもらわないと困る」

「……はい」

季節はすでに春。
もう数日もすれば入社式が行われ、新入社員たちが入ってくる。
なのに私はいまだに、転居届の書類一枚すら、満足に書いてもらうことができない。

「あの、どうかされましたか」

来客が帰ったのか、戻ってきた杉原(すぎはら)課長がこわごわ、イラついている男に声をかけた。