俺は、美峰りょうのことは以前から知っていた。

「相変わらず、竜之介は安樹ちゃんのことばかり見てるねぇ」

 俺と安樹、竜之介とりょうの四人で飲みに行った日の夜、お手洗いに立った俺の後ろからりょうはついてきた。

 手洗い場に入った俺に、りょうは扉越しに話しかけてきた。

「どこまで本気なんだ?」

「なぁに?」

「竜之介の愛人になる、っていう話」

「ふふ、りょうの好みは年上なんだよぉ」

 りょうは伯父の家の者で、伯父の命令で竜之介のことを監督する役目を負っていると聞いていた。

 中学生くらいの外見だが、実際は俺より七つ年上の二十六歳だ。

「子どもの扱いは難しいもん。ちょっと力を入れ過ぎると、くちゃってつぶれちゃうの」

 小動物系のかわいらしい雰囲気とは全く裏腹の性格を持っている。

 俺が高校生の頃からたびたび声をかけてきたが、未だにりょうが何を考えているのかさっぱり読めない。

 りょうとは本名ではなく、伯父に与えられた名前だ。正確にはおりょう。竜馬の妻から取ったそうだ。

――あれは小さくとも竜だからな。

 伯父にそう言わしめたほど、伯父はりょうを高く買っているらしい。

 ただ俺もりょうに対して、一定の信頼は置いていた。

――よしよし、りょうに任せなさい。

 俺が伯父の組と対立した組で色々と工作をしているのを知りながら、りょうはずっと伯父から隠してくれた。

 ……そして幼い頃の出来事で、りょうは俺の敵ではないと無意識に受け入れていたのかもしれない。

 お手洗いから出て、俺は席に戻る。

「寝ちゃったのか。しょうがないな、安樹は」

 時間も遅くなってお酒が入ったからか、安樹はすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。

「なんでこんなにかわいいんだろ」

 俺はそんな片割れが愛おしくて頬を綻ばせた。

 しかしふと視線を横に動かして、竜之介もテーブルに突っ伏していることに気付く。

「こいつが酒で眠るなんて珍しいな」

「そうだね」

 背後からりょうの声が聞こえて、俺は反射的に体を緊張させる。

「子どもはおやすみの時間だもの」

 ガン、と後頭部に鈍い痛みを感じた。

 視界が暗くなっていく。その中で、りょうの声が聞こえた。

「みんなかわいいなぁ。かわいくて、りょう、踏みつぶしたくなっちゃうよ」

 きゃは、という笑い声を聞いたのを最後に、俺の意識が途切れた。