「世の中、理解できない人っているだろう?」

 私はボタンの穴に針を通しながら何気なく言った。

「私には値札もついてない服を買う人の金銭感覚はわからないし、イベントが近くなるからって男を飢えた獣のような目で追いかける女子も意味不明だ」

 糸を引きながら正面を見ると、そこには銀髪を揺らしてかわいらしく首を傾げながら、私の片割れが見返してくる。

「友達と何かあったの? あすちゃん」

「友達……ではないんだけど」

 手元の布を睨みながら私は難しい顔をする。

「理解できない人がいてね。困ってる」

「部活?」

「う、ん。部活」

 歯切れが悪いのを気づかれないように、私は言葉を続ける。

「そういう人の扱いはどうしたらいいんだろう」

「あすちゃんは真面目だね」

 立ち上がって、私の双子の片割れ……ミハルはきらきらした碧色の瞳で正面から覗き込んでくる。

「適当にあしらうってこと、できないんだ。嘘がつけないから」

 嘘という言葉にぎくりとなった。そんなことには気づいていないのか、ミハルはにっこりと笑いかけてくる。

「そうだね。じゃあ宇宙人だと考えてみたら?」

「宇宙人?」

「そう。わからなくて当然だって開き直るの。だって住んでる星からして違うでしょ?」

 ミハルは顔を上げた私をみつめながら言う。

「でもね、宇宙人でもにっこり笑えば何となく通じるような気がするよ。あすちゃんはかわいいから、それで宇宙人もとりあえず襲撃はやめてくれるんじゃないかな」

「まさか」

 私は軽く笑ってから、じっとミハルの整いすぎた顔立ちを見る。

「でもミハルなら宇宙人でも見惚れると思う……よ」

 言ってからちょっと照れた。ミハルは立ち上がって、そんな私の頭を抱きながらぽんぽんと叩く。

「なんてね。迂闊に笑っちゃ駄目だよ。あすちゃん、誘拐されちゃうから」

「またミハルは」

 私のことをかわいいと言ってくれるミハルの優しさは嬉しいけど、私は自分でそこまで買いかぶれない。

「できた」

 私は完成したパジャマを広げて、ミハルの体に当てる。

 ミハルはそれを受け取ってすっぽりと頭から被った。

「ぴったりだ。あすちゃん、ありがとう」

 満面の笑顔を浮かべて私に抱きつくミハルに、私は苦笑する。

「そろそろペアじゃなくてもいいんだよ。違う柄でも作るし、自分で好きなパジャマを買ってもいいんだから」

「やだ。あすちゃんと一緒がいい」

 私と色違いになっているパジャマを着たミハルは、ふるふると首を横に振る。

 中学生の頃から、ミハルのパジャマは全部私が作ってきた。寝心地がいいようにと布地から厳選して、柄も毎度雑誌を見ながら二人で決めている。

「ふふ。あすちゃんとおそろい」

 ミハルははしゃぎながら自分のパジャマを笑顔で見下ろしている。

 エンブレムにミハルのアルファベットを組み合わせた、白と黒のパジャマだ。ちなみに私は同じエンブレムに自分のアルファベットで、ちょうど白と黒の位置が逆になっている。

「あ、私そろそろ行って来る」

 私は部屋の隅にあるコートを引いて羽織った。

「夜練大変だね。いつまで?」

「ええと……もう少し」

 私はミハルに追及されない内にバッグを肩に引っ掛けて振り返る。

「じゃあ、行ってきます」

「うん。気をつけてね」

 ばいばいと手を振り合って、私は部屋を後にした。