mirage of story
指輪
〜1〜






十八年も前の事。

まだ人と人とに深すぎる溝が確立されるそれよりも前、一人の女の子が生を受けた。






魔族の子だった。
それも今までの歴史上無かった程の強大な魔力を持って彼女は生まれてきた。

しかもその女の子は生まれながらにして、将来を約束された一国の姫。
ある魔族の国の王と妃である両親は、その子にルシアスという名を与えた。

ルシアスと名付けられた女の子。
それこそが、ライルらが姫と呼ぶ者である。














――――。

そしてルシアスが生まれた頃と同じくして、その魔族の国で男の子が生まれる。

名はライル。
そう、彼だった。




彼の家は古くから王の元に仕える一族の家。

身分はそれ程高くは無いものの王とその一族からの信頼は厚く、そのため幼い頃から城へ父親に連れられて来ていた彼は姫である彼女と出逢う。






同じ年に生まれた二人。

姫という身分という壁などは一切無いルシアスは街の子供達と何の変わりも無く、その上に皆が冷や冷やしてしまう程のお転婆。
そんな彼女を子供にしてはしっかり者であったライルが世話を焼くなど、誰から見ても仲が良くてまるで兄妹のようだった。


一緒に過ごすことが、まだ子供だった彼等にとっては日常であり当然だったあの頃の日々。
そうしてその当然のような日々が続き、幾年か年月が経つ。






ルシアスは明るく元気な少女になった。
お転婆さは相も変わらずそのままで、寧ろその度を増していた。

世間一般が考える"姫"という像は"しとやかで物静か"などと考えるものかもしれないが、彼女の場合は違う。

城の中でおとなしくしていることなど滅多に無い。
城を勝手に抜け出しては街の中を駆け回る、まさに男勝り。

王の頭を悩ませていたのは言うまでもない。






しかしそんな姫らしくない彼女を否定する者は誰も居なかったのは、ルシアスは姫という高い身分だなんてことには一切捉われない心優しく強き姫だったから。
彼女は誰にでも笑顔で慕われる存在だった。

それを父である王は嬉しく思っていた。




 


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