君が夢から覚めるまで
8.卒業
正月に実家へ帰った香帆からお土産と称し合格祈願の御守りを貰った。
「私の地元では結構有名な学問の神様だし、私もこの御守りで大学合格したから」
あのクリスマス以来、告白の事も付き合うって話の事も香帆は一切触れてこなかった。
だが、こうして御守りをくれたりするのを見ると、期待せずにはいられなかった。
バレンタインにはチョコレートをくれた。
それがどうゆう意味の物か聞けなかった。
けど、天にも舞い上がる気持ちで嬉しくって仕方なかった。
試験まであと2週間…いよいよ大詰め。
香帆の指導にも熱が入る。
だが、怜はそれどころじゃなかった。
家庭教師の面接があったとかで、今日の香帆はスーツを着ていた。
いつもと違う雰囲気に怜はドキドキしていた。
脚の形がくっきりと分かる程よく短いタイトなスカート。
そこから伸びる柔らかそうな白い脚。
第2ボタンまで外してあるシャツは真横から見ると、襟元から綺麗な鎖骨が見える。
髪を耳にかける仕草、僅かに匂う香水。
長い睫毛に柔らかそうな唇。
折れてしまいそうな程細い指…その全てを眺めては一々ドキドキしていた。
「聞いてる?ちゃんと」
香帆と目が合い、我に帰る。
「ごめん…」
「もう!最後の最後だよ!何ぼんやりしてるのよ!しっかりしなさい‼︎」
珍しく香帆が怒る。
誰のせいだよ…。
心の中で悪態をつく。
「もう…私がしてあげれることなんて殆どないんだから…」
寂しそうに香帆が呟く。
今はそれどころじゃないのに、余計な事に気を取られていた事に反省し、気持ち入れ替えて授業を受けた。
この日、香帆は駅まで送らなくてもいい、と見送りを断られた。
その時間を勉強に充てて欲しいと言われた。
今日は集中出来なかったから仕方ないと思った。
この時、香帆が何故スーツを着ていたのか…どんな気分で帰ったのか…怜は知らなかった。
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