嘘の続きは
偽りの女優

影武者1



秋野朋花 26才。

大学卒業後、就職した会社では入社以来ずっと企業の顔と言われる受付業務をしている。

実姉は女優の秋野真紀。
彼女は10代でデビューして今年30才になる。
少女から大人の女性になりデビュー以来ずっと第一線で活躍する実力派人気女優だ。

姉は子どもの頃から目立って綺麗だった。
それに引き換え私は姉のような美貌にも才能にも恵まれない普通の少女だった。

綺麗な姉が芸能界にいるせいで周囲から注目を浴びることが多く、彼女の妹だというだけで『秋野家の美人姉妹』と周りから言われることにどうにも居心地が悪く逆に憂鬱に感じていた。

『秋野家の美人姉妹』なんて言葉は姉や両親に対するご機嫌取りでしかなく私はどこにでもいるようなごく普通の少女だった。
だからそんな言葉を聞くたび切なく心苦しく思いながら育ってきた。

周りの大人たちだけでなく、自分の同級生も皆「真紀ちゃんは綺麗だ」と言う。
私もその意見に大賛成だけど、その後、取って付けたように「朋花ちゃんは可愛いタイプだね」と言うのだ。

そんなこといちいち言わなくてもいいのに。私に媚を売っているのか可哀想に思っているのか。

そんな感じで小学生の頃から女優の妹として不特定多数の周囲の視線にさらされることが多く、私自身は目立たないように、でも嫌味にならないように笑顔を見せるという芸当を身に着けるようになっていた。

ただ姉のことは大好きだし、姉妹の仲はかなり良いと思ってる。
だからこそ余計に気持ちが塞ぐことがある。

芸能界に身を置く姉が悪いわけじゃない。
どうしたって今さら女優の妹である私の立場は変わらないんだから、これは仕方のないこと。
逃げられないのはどうしようもないこと。

こうして思春期に諦めと我慢を覚えた『秋野朋花』という人間が出来上がった。
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