嘘の続きは

影武者2


都内の撮影スタジオ。

いつもの通勤スタイルより更に地味なリクルートスーツでもっさりしたメイクにメガネ、黒っぽいバッグを抱えて俯きながら建物の中に入った。

姉から渡されたIDパスを警備員に見せると奥に進むように促される。

IDに書かれた名前は姉の事務所スタッフのもので私の本名ではない。
真紀の妹と誰にも気づかれずに真紀と合流する必要があったからだ。

ここには姉の撮影の見学のために中学生の頃から何度も来たことがある。
だから、スタジオの場所も控え室の場所もよく知っていた。

ひと気のない長い廊下を歩いて真っ直ぐに姉の控え室に向かうと、廊下の壁に背中をもたれたスーツの背の高い男の姿が目に入り思わず息を飲んだ。

一番会いたくなかったオトコ。

姉の元マネージャー、真島英司(まじま えいじ)

彼は数年前にマネージャーを後身に譲り、2年前には完全に現場を離れ事務所の専務になっていた。

まだ現場に来ることがあるのか、それともやはり今でも姉の真紀は彼の特別な存在だからこうして現場に足を運んでいるのか。

男は見るからに昔より質のいいスーツに身を包み、壁にもたれスマホを操作している。

もうすぐ40歳を迎えるはずだけど、このオトコにとって中年という言葉の響きは全く似合わない。

以前と変わらず引き締まった体型でお腹が出ているようでも顎周りがもたついているような様子など微塵もない。

どこか影があるこのオトコのことが好きで好きで堪らなかった私の恋は3年前に苦い思い出となって区切りをつけ、このオトコの存在を自分の心の奥底に封印していた。

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