秘密の出産が発覚したら、クールな御曹司に赤ちゃんごと愛されています
7.嘘

♢♢♢♢♢

コール音が鳴って、ハッと我に返る。

 コンシェルジュカウンターでぼんやりと過去のことを思い出しているうちに、数分経っていたみたいだ。

近くにある電話機に受話を知らせる音と点滅を確認して、急いで受話器をあげる。

「はい。コンシェルジュカウンター、松岡です」
『……椎名か?』

 受話器越しに聞く懐かしい低い声。昔の苗字で呼ばれて、相手が直樹だと気づく。

「はい、そうです」
『そうか。結婚したんだったな。だから――』
「そうです。松岡になりました」

 チクチクと胸が痛む。

 本当は結婚なんてしていない。これは母が再婚したから苗字が変わっただけだ。だけど直樹は結婚したと思ってる。

 実は直樹に別れ話をしたあと、何度か連絡がきて復縁話を持ち掛けられていた。

「諦められない」「友里が好きなんだ」「もう一度やり直したい」と説得されたけれど、私はそれらを全て断った。

しかしなかなか諦めてもらえないので、やむなく義父である松岡さんの力を借りることにした。
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