時には優しく…微笑みを

過去【拓海side】

「…っ、出ないな。時間取れって言うくせに、電話したらこれかよ」

珍しく仕事が早くに終わった俺は、彩奈に電話をしていた。
最近、営業部の係長に昇進した俺は仕事が忙しくゆっくりと時間が取れないでいた。
付き合っていた彩奈ともゆっくり会う時間が取れず、我慢出来なくなった彩奈から「仕事と私どっちが大事なのよ!」と言われてしまった。
仕事が面白くなってきていた事もあって、その言われた事に即答出来なかった。
挙句、どっちも大事だと答えてしまい、余計に怒らせてしまっていた。

「ダメ元で家に行くか…』

連絡が取れないまま、俺は仕方なく直接彩奈のマンションに向かった。


いたら喜んでくれるだろう、そう思って。
彩奈の好きなケーキを買った。

最寄り駅に着いた時に電話をかけてみたけど、まだ繋がらなくて、いない時は合鍵もあるから部屋で待っていよう、そう思いながら歩いて行った。

マンションに着いた俺は、彩奈の部屋に明かりが点いているのが見えた。

「いるんじゃないか…」

電話に気がついていないだけかもしれない、そう思っていた。

びっくりさせてやろうと思った俺は、合鍵で鍵を開け、部屋に足を踏み入れた。
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