時には優しく…微笑みを
気持ちの行方
「どうした?」

聞くべきか、聞かずべきか…

「今日、何か言ってたんですか?彩奈さん…」

聞いていた課長の顔が引きつった。
そしていつもの顔になった。

「彩奈の事を隠すつもりもない、あいつ、彼女ここにいるんだ?同じ部署なのね、って。あなたも部下に手を出すようになったのね、って笑ってたよ…」

「っ、ひどい。そんな事ないのにっ…」

悔しい。
どうしてそんな言い方しか出来ないの…
膝の上で握りしめた私の手を、課長がそっと握ってくれた。

「大丈夫。俺は大丈夫なんだ。櫻井が心配なだけだ。あの時、櫻井が俺の言った事に反応してくれて助かったよ」

「あ、いえ。多分いない方がいいんだな、って思ったから…」

「俺についてきた証拠だな。ありがとうな、俺のせいで嫌な思いさせてるのに」

下を向いていた私も顔を上げて反論した。

「そんな!課長は悪くないですよ。自分をそんな風に責めないで…」

思いの外…
私は課長に近づいていたみたいだった。
勢いあまって、課長の唇が目の前にあった。

「あっ…」

反射的に、顔を逸らそうとした。

「櫻井…」

「え?」

逸らそうとした私の頭を後ろに、課長の大きな手が重なった。
そして身動きが取れなくなってしまった。

「櫻井…いい訳しないから…」

「か、課長…」

課長の唇が重なっていた。
< 81 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop