わたしの愛した知らないあなた 〜You don’t know me,but I know you〜
連絡

1.

「一花、どうしたぼうっとして」

一花は低い声に反応して上を見た。

「鬼塚さん……」

背が高く体格のいい青年が上から見下ろしている。気づくと手の中にあるコーヒーの入った紙コップはもうぬるくなっていた。

鬼塚が自分のカップを一花のいたスタンディングテーブルに置く。

「珍しいですね。鬼塚さんがまだ会社にいるなんて」

今は昼休憩の時間だった。事務職の一花はよくこうやって会社の休憩兼カフェコーナーで過ごすが、営業の鬼塚が会社にいるのは珍しかった。

「一度出て、戻ったんだよ。また出てく」

そう言って彼は自分のコーヒーを飲んだ。

「お疲れ様です」

「おう。で、どうしたんだ?いつにも増してぼうっとしてるぞ」

「え、あ、そうですか?」

一花は気の抜けた声で答える。

「なんだよ、暗いなあ。奴だってもう二、三日で戻って来るんだろ?」

いきなり言われて一花はたじろいだ。

「……あと3日です」

「じゃあ、いいじゃないか。向こうの商談もうまくいったみたいだし、機嫌よく戻ってくるさ」

言われて一花は頷いた。わかってはいる。わかってはいるんだけど。

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