最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

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 失礼します、と声をかけてから社長室のドアを開けると、上條社長はマチダ製作所の社長と応接セットで向かい合いながら談笑しているところだった。
 
 私には一度も向けられたことのない穏やかな笑顔に内心驚きながら、お茶を出す。

「あれ、佐倉君。前田(まえだ)常務のところで顔を見ないと思ったら、社長の担当になったんだ」
「はい。この四月に配置換えがありまして」
「佐倉君優秀だから。上條社長も仕事が捗るでしょう」
「ええ。よくやってくれていますよ」

 ……何がよくやってくれてる、だ。

 内心毒づきながら、表情はにこやかに保って恐れ入りますと頭を下げた。町田社長は以前から私のことを買ってくれていて、よく冗談交じりで自分の秘書にならないかと誘っていただいたものだ。

「よく気が付くし、淹れてくれたお茶はおいしいし。常務から聞いたけど、資料作るのも上手なんでしょ?」
「……ええ。大変見やすいです」

 この人私の作った資料見たことないから、そんな質問しても無駄ですよー。

 少し言葉に詰まった上條社長を冷ややかな気持ちで一瞥してから、社長室を後にする。デスクに座ると、またため息が漏れた。最近ため息が癖のようになっていて、一体いくつの幸せが逃げたのだろうかと思うと空恐ろしくなる。

 上條社長の担当になって三か月ちょっと、ようやく社長のやり方に少しは慣れてきたけれど、日々憂鬱になるばかりだ。
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