最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

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 幸いただの過労で、十分な栄養と休養を取るように、という一般的な診断だった。
 病院を出るころにはさすがの社長も体が辛いのか、それとも私の前では平静を装う必要などないと思ったのか、ぐったりとした様子だった。車に乗り込むと、すぐに座席にもたれかかって目を閉じる。足が長いせいでそうやって体を投げ出すととても窮屈そうだ。

 診察中に買っておいたスポーツドリンクを差し出すと、ちらりと一瞥して無言で受け取る。一気に三分の一くらい飲み干してしまった。

 運転席の松原さんが、社長に声をかける。この人は会社付きではなく社長本人に付いていて、上條家に直接雇われているらしい。

「本邸に向かいましょうか? あそこなら医者もすぐに呼べますし……」

 おおそうだ、この人上條の御曹司なんだった。上條邸と言えば有名だ。広大な敷地、重要文化財級の建物、使用人の皆様方。きっとお抱えのシェフもいるだろうし、栄養面は万全、それに私が監視する必要もなくなる……。

「つまらん冗談やめろ。あんなところで寝てたら余計悪化する」

 ナイスな提案だと思ったのに社長はすぐに却下してしまった。松原さんも、とりあえず聞いてみただけのようで、すぐにかしこまりましたと車を出してしまう。どうやら予定通り社長の一人暮らしの部屋に向かうようだ。

「よろしいんですか? 本邸に行かれたほうが何かと便利なのでは……」

 諦めきれずに進言すると、社長は横目で私を見た。

「監視役なんて面倒な役押し付けられて残念だったな。帰りたいなら帰っていいぞ」
「いいえ。社長の体調管理も秘書の大事な務めですので」
「さすが優秀な秘書サマはご立派な心構えで」
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