最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~
冷酷社長の不機嫌

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 ――余計なことは一切しないでいい。


 初めて挨拶に訪れた私が一番に投げつけられた言葉が、それだった。

「……はあ」

 呆気に取られる私を一瞥することもなく、高速でタイピングしながら続ける。

「君にお願いしたいのは来客対応だけだ。あとはこちらから指示する。余計な気は回すな」

 はい、お茶汲みだけしてろってことね。

 気を取り直した私は心の中で毒づきながら、目の前の人物を観察する。

 ワックスで整えられた黒髪から除く目は切れ長で、すっと通った鼻筋に続くのは薄い唇、上質なスーツを纏った体は服の上から見ても引き締まっている。怜悧さを感じさせるその姿は全てが綺麗に整っていて、無駄がない。
 そんな恵まれた容姿にも関わらず、全くときめかないのは、醸し出すオーラが威圧的かつ不機嫌過ぎるからだろう。

 もったいない、これでもうちょっと愛想が良ければ完璧なのに。

「私の担当は神崎(かんざき)を指名したはずだが?」

「神崎室長の一番の仕事はあくまで秘書室全体の管理ですので。サポートは致しますが、社長一人につきっきりになることはできないということで、私に指名が回って参りました」

「そんなに優秀なのか? 見たところそう経験豊富でもなさそうだが」

「スキルで言えば普通かと」

「ではなぜ君に?」

「一番打たれ強いからだそうです。冷たくあしらわれようが理不尽に詰られようが、君なら耐えられそうだから、と」

 タイピングの手が止まって、パソコンの画面から顔を上げてこちらを向いた。ようやく正面から顔を拝めたのに、そこに浮かぶのは何とも言えない渋い表情だ。もったいない。

「俺は鬼か?」
「神崎室長の認識ではそのようです」

 はあ、とため息をつくと、背もたれにもたれてお腹の前で指を組む。

「理不尽に扱うつもりはないが、正直に言えば、秘書というものにいい感情は抱いていない。煩わしい思いはごめんだ」
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