ニセモノ夫婦~契約結婚ですが旦那様から甘く求められています~
糸を切る
「ここだ。今日から君の家でもある。好きにしていいから」

 柴坂常務に案内された部屋を眺め、私は「は、はぁ……」と驚きの声を上げた。

 アースカラーの二十五階建てのタワーマンション。その洗練されたデザインの外観を見た瞬間からだいたい予想はしていたけれど、一面ガラス張りで外の公開空地の緑を見渡せるエントランスホールにはコンシェルジュの人が立っていて、エレベーターを呼ぶのでさえも、マンションに入るときと同じカードキーが必要な高級マンションだった。

 しかも、エレベーターは自動的に自分の住んでいる階に向かうらしく、ドアが開くと目の前はすでに玄関だった。

 まるで魔法みたい。

 オートロックの家にすら住んだことがない私は、平静を装いつつも内心眼球が飛び出てしまいそうなほど衝撃を受けていた。そして、極めつけはこの部屋だ。

 柴坂常務に連れられリビングに足を踏み入れた私は、広がる光景に立ち尽していた。

 広い……。ここだけで、いったい何畳あるのだろう。エントランスホールと同じく中も一面ガラス張りで、まるで部屋ごと空に浮いているみたいだった。
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